喜 ぶ 顔 が 見 た く て た だ そ れ だ け
この冬空の下店の外でチョコを売ってるお姉さんを見るとつい同情したくなってしまう。
あんなミニスカートでつっ立ってたら寒いだろうに。
チョコが綺麗に並べられたショーケース。
その隣にはおしゃれな字体で「バレンタインデー」と書かれた旗が忙しく風に煽られていた。
隣で歩調を合わせて歩いてくれている彼のコートの裾をつまんでみる。
彼はすぐに気付いて、マフラーに埋めた顔をこちらに向けた。
片方だけ眉を下げるその表情がちょっと格好良く見えちゃったりして。
「今年は逆チョコが流行ってるんだってさ、寿クン」
今朝のテレビで仕入れたばかりの情報だ。
寿は少し目を細めた。
決して笑ってるわけではない。
この人が私に対してこうゆう呆れたような目をするのはいつもの事。
「あっそ」
「…そんだけ?」
「俺に何求めてんだお前は」
「チョコ」
「馬鹿か!…って何だその手は!」
手の平を上に向けて差し出した私の手は「しまえ!」と言う彼のせいで行き場を無くしてしまった。
こんな定番な事言うのはあれだけど、私ほんとは作るより食べる方が好きなのに。
女から男にチョコを贈る日なんて誰が考えたんだろう。
きっと男に違いない。
街を抜けて公園に着き、二人並んでベンチに腰かける。
鞄の中に手を突っ込んで赤いラッピングペーパーで包まれた努力の結晶を取り出した。
昨日悪戦苦闘しながら焼いたココア味のパウンドケーキだ。
実は少し焦げたけど元の色が色なだけにあまり目立たずに済んだ。
「はいっ」
今更になって手作りのお菓子を渡す事に恥じらいを感じてしまう。
すごく適当な渡し方になってしまって少し後悔した。
一方彼は全く気にしない様子で感謝の言葉を述べてからすんなり受け取ってくれた。
ラッピングのリボンをつまんだので私が慌てて
「え、今食べんの!?」と聞くと「駄目か?」聞き返されてしまった。
いや別にいいんだけど。
なんだか照れくさい。
私がまだ何も言葉を返さないうちに彼はリボンの結び目を解いてペーパーを広げてしまった。
焦げ茶色の物が見えた瞬間少し緊張したけれど、
「おお、美味そう!」と言う感嘆の声とその笑顔に身体がほぐされた。
「にしては上出来じゃねえか」
「うわ、失礼!」
片手でケーキのサイドを掴み口に運ぼうとした彼は、
何かを思い出したように一時中断して自身の鞄の中身をごそごそといじり出した。
「あったあった」
出てきたのはコンビニのビニール袋に包まれた小さな何か。
渡されたので袋から出してみると、
茶色のラッピングペーパーに包まれピンクのリボンがかかった箱が姿を現した。
裏に製品表示のシールが貼ってあって、品名の欄には『チョコレート』と表記されていた。
「流行に乗ってやろうかと思ってよ。誰かさんのために」
「…さすがー!!」
「あったりめーだ」
得意げな顔をする彼の横で私は贈り物を抱き締めた。
バレンタインデーの公園でお菓子を交換し合うカップルを私は今まで見た事がない。
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今更バレンタイン話(゜д゜;)
逆チョコあげた男子っていたんでしょうか?
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