離 し た く な い 五 分 間

 

 

      足の裏で地面を押すとブランコが軋んだ。

      正面に立つ古ぼけた時計を見上げると、指針はもうすぐ12時を指そうとしていた。

      今日バスケ部は午後から練習らしい。

      みっちゃんがこの公園を出るまで、あと十分。

      気付くと私は小さな溜め息をついていた。

      「今度会えるのはいつかなあ…」

      と言うのも、みっちゃんは明日から合宿に行ってしまうから。

      その合宿が終わったら今度はインターハイ。

      身体も休めなきゃいけないし、

      私と会う時間なんてインターハイが終わるまではもう作れないかもしれない。

      しかも私は自分の部活の関係で広島へ応援には行けないから、

      遠くから見守ることすらもできないんだ。

      「なんだよ。寂しいのか?」

      ズボンのポケットに手を突っ込んでだらしなく隣のブランコに座る彼は

      私の方に視線をやってにやにやと笑った。

      寂しい、とか当たり前じゃん。

      でも必死で勝ち取った全国だから、

      私の事なんか忘れてバスケに専念して欲しいっていうのも本音であって。

      みっちゃんはバスケやってるときが一番格好良いんだ。

      だから「寂しくなんかないよ」なんてバレバレの嘘をつく。

      「インターハイの応援席にがいねーと思うといまいちやる気出ねぇや」

      「…嘘つき」

      居なくたってやる気満々でしょーに。

 

      「…おーい。ー」

      もちろん聞こえてるけど聞こえない。

      ぶっさいくな顔でそっぽを向いてたら頭に温かいものが落ちてきた。

      ちょっとごつごつしてるけど大きくて優しいそれは私の髪をくしゃくしゃと乱した。

      「日本一になって帰ってきたら真っ先に会いに来てやるよ」

      ああ、この笑顔に弱いんだよなあ。

      いたずらっぽく笑う彼につられて顔の筋肉が緩まってゆく。

      「立て」と手の仕草だけで指示されて、わけが分からないまま立てば一瞬のキスが待っていた。

      間髪入れずに今度は乱暴に抱き締められる。

      だけど痛みはない。

      あるのはいつだって不器用な愛情だ。

 

      横目で時計を見るともう公園を出なければいけない時間だった。

      「みっちゃんもう行、」

      「あと五分」

      このまま時間止まっちゃえばいいのに。

      なんて。

 

      ・・・・・・・・・・・・・

      みっちゃんは彼女もバスケも大事にします。

      きっと!いや絶対!

      2009.01.27


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