さ あ こ こ か ら は じ め よ う

 

 

      「。ふっちゃったって本当?」

      親友の問いにぐっと喉を詰まらせる。

      告白してもらえるのは嬉しいけれど、

      その思いに応えられないっていうのはとってもとっても申し訳ないことで。

      残念そうな哀しそうな顔をする相手に私は何度も謝った。

      「好きな人いないなら付き合ってみれば良かったのに」

      あの人性格いいし顔も悪くないから結構人気あるみたいよ、と彼女は続けた。

      確かに格好良かったし優しそうな人だったと思う。

      付き合ったら大事にしてくれる気がした。

      でも駄目なんだ。

      私には秘密があって、それはまだ誰にも打ち明けたことがない。

      小さな頃からの秘密。

      それは幼なじみの事。

      私はその人に何年もの間片想いしてて、未だに想いを伝えられていない。

      中学のとき告白を決意したけれど勇気がなくて出来なかった。

      今思えば本当に馬鹿だったと思う。

      後にそれは人生最大の後悔になった。

 

      彼は高校に入って間もなく変わってしまった。

      生き甲斐とも言える物を失って、まるで別人みたいに。

      会いに行っても家にいない事が多かった。

      電話をしても出てくれない。

      道端で見かけたとき思い切って声を掛けてみた。

      目一杯明るく振る舞ったつもり。

      でも彼の目を見た瞬間身体が凍った。

      今まで見た事もないような冷たい目。

      発される言葉は全てそっけない。

      もはや彼にとって私は幼なじみでも友達でも何でもない。

      どうでもいい存在でしかないのだ、と思わざるを得なかった。

      それでも諦められない自分は本当に心底あの人に惚れてるんだと思う。

 

      学校からの帰り道をとぼとぼ歩く。

      昔の事を色々思い出しながら天を仰ぐと

      いつの間にか夕焼け色がうす紫色に変わってて辺りには夜の匂いが漂い始めていた。

      冷えた空気が手の甲をするりと撫でた。

      両手に白い息を吹き掛ける。

      もうすぐ家だ。

      ふと前方を見たとき、道の数十メートル先で黒い影が動いた。

      目を凝らしながら歩みを進める。

      段々と姿が見えてきた。

      髪型が爽やかな感じのなかなか体格いいお兄さん。

      コンクリの壁を背にポケットに手を突っ込んで下を向いている。

      もう一度息をはいて前を通り過ぎた直後、

      「!」

      聞き覚えのありすぎる低い声。

      振り向くとたちまち視界に入ってきたその人は

      「この俺を無視とはいい度胸してんじゃねえか」

      なんて脅し口調だったけどそれに似合わないくらい優しい目をしていた。

      目の前にいる人は言うまでもなく、

      「寿!!」

      足が勝手に動き出す。

      私は彼の前に躍り出た。

      近くに寄ると顔がしっかりと見えた。

 

      ああ、変わった。

 

      長かった髪が切られたこと、そして何より表情が全く違う。

      こんな生き生きした表情をまた見られる日がくるなんて。

      今言おうと思った。

      中学のとき言えなかった事を。

      もう後悔したくないからだ。

      「あのね、」

      「今まで悪かった」

      言葉が重なって、私の声は彼のそれにかき消された。

      沈黙が流れる。

      「今まで避けてて悪かった」

      謝罪を繰り返す寿の目は真剣で、私はすぐに言葉を返せなかった。

      やっと出てきた自分の声はびっくりするくらい小さくて驚いた。

      「なんで…」

      ここにいるの?

      私を待ってたの?

      避けてたんならどうして。

      「お前に会いたくなかったんだ」

      針が刺さったような痛みが走る。

      涙腺が緩むけれど一度涙が出たら絶対止まらない。

      ちゃんと伝えるまでは泣いちゃいけない。

      我慢して押し込んだら眉間に皺が寄った。

      「でもお前の事嫌いになったとかそうゆう訳じゃなくて…そうじゃねえ」

      うつむき気味に頭を掻く寿。

      「お前も知ってんだろ。バスケ出来なくなって俺が変わってったの。

      情けねえって本当は分かってた。…だから」

      お前にそんな姿見せたくなかった。

      「くだらねえプライドだけどな」

      そう言って苦笑いする寿の顔を見たら何かがきゅーっと締め付けられて

      居ても立ってもいられなくて、だから私は言ったんだ。

      「寿、大好きだよ」

      目を丸くする寿が瞬く間にぼやけて、熱いものがいくつも頬をつたった。

      目をつむって次に開けたとき、私は彼の温かい腕の中にいた。

 

      ・・・・・・・・・・・・・

      改心したみっちゃん素敵!

      2009.01.25


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