ホ ッ ト & ホ ッ ト

 

 

      おはよう!と八神家のリビングに駆け込んできたのは長男太一だった。

      寝坊して遅刻ギリギリに家を出て行くのはお決まりの事で、この光景はほぼ毎日見られる。

      跳ぶように椅子に腰掛け、きちんと用意された朝食にがっつく太一は、

      違和感を感じて口の中に物を詰め込む作業を一旦止めにした。

      いつもと違う。

      そう思わさせる理由は、リビング内を少し見渡すとすぐに理解できた。

      「母さん、ヒカリは?」

      キッチンで洗い物をする母に尋ねると、

      「風邪ひいて熱出ちゃったから今日はお休みよ」という答えだった。

      噂をすれば、とはこの事で、子供部屋のドアが開き

      大きなマスクで顔半分を覆ったヒカリが現れた。

      目のすぐ下からはマスクで隠されているが、瞼は重たげで、

      足取りが頼りない事から具合が悪い事は一目瞭然だった。

      洗い物をしていた手を拭い母がヒカリの前で目線を合わせるようにしゃがんだ。

      「ごめんねヒカリ。母さん今日どうしても出掛けなきゃいけない用事があるの。

      できるだけ早く帰ってくるようにするけど…」

      「ううん。大丈夫だよ」

      いつもより声がか細く弱々しい。

      「大丈夫か?」

      太一も椅子に腰掛けたまま声をかける。

      「うん。ちゃんと一人でも薬飲むし、平気だよ」

 

      見送りをするため、玄関で靴を履いている太一の後ろに立つヒカリ。

      いいから寝てろ、と言っても見送ったらすぐ寝る、と返すばかりだ。

      「俺もできるだけ早く帰ってくるよ」

      ヒカリは静かに首を横に振った。

      「お兄ちゃん今日はサッカーの日でしょ?ヒカリのことは気にしないでいいよ」

      靴紐を結び終わり180°回れ右をして向かいあった兄は、

      口の先端を上げて妹の頭にポンと右手を置いた。

      「あったかくして寝るんだぞ」

      駆け足で出て行った兄の後次々に出掛けて行く家族達を見送り、

      ヒカリは薬を飲んで再びベッドへ潜り込んだ。

 

      額にひんやりとした物を感じ、指でなぞると熱冷ましシートが

      真新しい物へと交換されている事に気が付いた。

      部屋にある時計を見てみるとまだ夕方にもなっていない。

      ゆっくりとした動作で起き上がり、ドアを開けてリビングに足を踏み入れた。

      ソファーには誰も座っていなかった。

      ガスコンロと鍋を使う音が聞こえ、

      キッチンに目をやるとおたまを持ってじっと鍋の中の様子を伺っている兄がいた。

      近寄ろうとして床が軋むと太一はすぐこちらに気がついた。

      「おー、具合どうだ?」

      額は熱冷ましシートが占領しているため、兄は妹の顔を両手で挟むようにして熱の高さを測った。

      相変わらずヒカリの目はとろんとしている。

      「お兄ちゃんどうして居るの?サッカーは?」

      「そんなん休んだに決まってんだろー」

      太一の手の平は予想以上に温かく、

      ヒカリは彼が授業終了後全速力で走って帰ってきた事を察した。

      「…ごめんね」

      謝るヒカリを置いてキッチンへと戻り、よしできた、と再び出て来た彼が手に持っていたのは、

      湯気がふわふわと立ち上ぼる手作りの粥が入った小皿だった。

      「母さんが置いてった炒飯全然減ってなかったからさ。これなら食べやすいだろ?」

      ほら、と差し出す小皿をそっと受け取る。

      スプーンで少し掬って口に入れるとたちまち消えるようにして食道を通っていった。

      ただの粥だが、食べやすいだけでなく兄独特の味があった。

      「サッカーなんかいつでもできんだからいいんだよ」

      先程の謝罪の返事なのだろうか。

      二口、三口と粥を口へ運んでは飲み込んでゆく。

      ヒカリは胸中のほんの一筋の寂しさが消えるのを感じた。

      申し訳ないとは思いつつも。

      「ありがとう、お兄ちゃん」

 

      ・・・・・・・・・・・・・

      小学生の八神兄妹!

      恋愛感情は無くあくまで仲良し兄妹。

      2008.11.15

            

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